雨の匂い

休日の夜、
釣りが出来なかったせいか、いつもより喉こしの悪いビールを飲みながら、
プロアングラー・村越正海さんのブログを見ていました。
タイトルは 『雨』。
土砂降りの中、ある有名な写真家と渓流へ行った際の会話が綴ってあります。
村越氏が 『こんな大雨で大丈夫ですか?』 と尋ねたところ、
その写真家は 『ぼくはむしろ雨が大好きです』 と返したそうです。
そしてさらに、こう続けます。
『それに、渓流を取り巻く緑が乾ききっていては美しくない。
 雨に濡れた緑の葉や苔の方が美しいとおもいませんか』

これと同じことを私も言われたことがあります。
今から20年以上前。
場所は鹿児島県鹿屋市。
私はバイクで日本1周をしている途中でした。
その日は台風直撃でさすがにキャンプ(友人曰く野宿)は出来ず、
偶然市内にあったライダーハウスへ逃げ込みました。
ハウスと言っても農家の納屋を改装した所で、
『旅モード』の時でないと躊躇するような場所です。
そこに居たのがMさんでした。
Mさんは長崎の方で、お盆休みを使って九州をツーリングしている途中でした。

どんな話の流れだったのか、今となっては覚えていませんが、
翌日から私たち2人は、Mさんの家を目指して共に走ることになったのです。
翌日は台風一過には程遠い雨。
期待していた九州の景色は暗い雲と強い雨に遮られ、
ねっとりまとわりつくレインウエアの不快感を我慢しながらの旅でした。
2時間ほど走ったでしょうか。
国道沿いのドライブインで缶コーヒー片手に休憩を取っていると、
Mさんは私にこう言いました。
『雨で嫌だなあと思って走ってるでしょ』
『そりゃあ…まあ』
『それじゃあ今日一日がもったいないよ。雨の九州も良いなぁと思って走れば楽しいもんさ。
 それに、雨の方がきれいな景色もあるし』  
そんなこと考えもしませんでした。
そう言われて走ってみると見えないものが見えてきます。
山の中腹部に帯状に掛かる幽玄な霧、美しさを増す沿道の緑。
はるか向こうに見えるうっすらとした晴れ間…
どれも、さっきまでの私には見えていない景色でした。

彼の家に泊めてもらった翌日、
私は長崎から小さなフェリーを乗り継ぎ、天草から熊本へ。
雨の香りが残る島々に沈む夕焼けは、神々しいほどに美しく、
日本1周の旅で最も忘れられない景色になりました。

今日は妻が車を使うので電車通勤です。
外はまだあいにくの雨。
朝の晴れ間に騙されて、傘を持って来るのを忘れました。
たまには濡れて帰ろうか。

窓際のサイトー について

厚木市のオーダーカーテン専門店+PLAN(プラスプラン)オーナーの斉藤です。単なる生地の組み合わせではない、専門店ならではのプランニングをご提供します。ブログでは、そんな私とスタッフの日々の仕事ぶりを綴っています。
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